★★☆
沼田曜一の一人舞台
尊属殺人の濡れ衣を着せられた女(高倉みゆき)が、刑務所を脱獄するサスペンスドラマ。
ミステリとしてみれば、まるでがっかりしてしまうレベルの話なのだけれど、飽きさせない程度にはしっかり作られている。
ヒロインが収監される監房には、セックス狂の女囚がいたりして、当時としては大胆な描写だったのかもしれないし、列車を使ったヒッチコックばりのサスペンスシーンも楽しめる。
困ってしまうのは、高倉みゆきが演じるヒロインが、とても馬鹿で他人任せなので、あまり同情できないことだ。
ぼんやりしていたせいで無実の罪を着せられ、脱獄するのも人任せ、真犯人を捜すのも人任せで、自分の立場がまるでわかっていないのだから、早く真相を解決してほしいという切迫感がわいてこない。
現実の世界で高倉みゆきは、大蔵貢社長の執拗な一方的求愛*から逃げ回っている最中で、本作への出演を最後に新東宝を去ることになる。
これに激怒した大蔵は、例の「俺は妾を女優にした」発言で高倉の女優生命を断ってしまうのだから、彼女にとってはスクリーンの外のほうが、よほどドラマチックだった。
高倉の脱獄を助ける女囚が若杉嘉津子。
ほとんどスッピンに近い、なりふりかまわない汚れ役を楽しんでいるかのよう。
ヒロインの継母役に、いつも眉が薄くて目つきが不穏な宮田文子。
それにしてもすばらしいのは、高倉の有罪に疑問を持ちはじめる警部役の沼田曜一である。
通常なら、正義感を振りかざして熱演をしてしまいそうな役柄を、容易にハラを見せない不敵な権謀実数家といった役作りで、冷静な状況判断から真実を突き詰めていく。
その演技に応えられるほど、脚本の出来がよくないこの作品を、沼田曜一が一人で引っぱっているというのが、見終わったあとの感想。
コートの襟を立てた立ち姿も、やたらとかっこよくて、好きな俳優になってしまった。
音楽は松村禎三。ラテン風のリズムに無調の旋律がかぶさるギター曲が脱獄場面に流れて、とてもいい効果をあげている。
*最晩年の大蔵貢について、「生首痴情事件」を監督した小川欽也が語っている。
「社長は高倉みゆきが最後までずっと好きだったみたいだよ。テレビや雑誌に出てたら奥さんに隠れてね、社長は見てた。」(山田誠二「幻の怪談映画を追って」(泉洋社刊)