帰ってきた モニターの中の映画館

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すっ飛び駕

監督: マキノ雅弘 

1952年

製作: 大映(京都撮影所)
原作: 子母沢寛
脚本: 伊藤大輔
撮影: 宮川一夫
音楽: 鈴木静一
出演: 大河内傳次郎, 黒川弥太郎, 河津清三郎, 三浦光子, 長谷川裕見子, 伏見和子, 南条新太郎, 澤村國太郎, 荒木忍, 東良之助


★★★☆暗い宿命を描いた生世話(きぜわ)劇

次郎長三国志シリーズの前年、マキノ雅弘がフリーの立場で大映で撮った作品を1000円DVDで鑑賞しました。
上映プリントも痛みがひどいそうなんですが、このDVDもかなりノイズだらけで、セリフが聞き取りづらい。

河竹黙阿弥の「天衣粉上野初花」(くもにまごううえののはつなは)のアダプテーション作で、河内山宗俊とか直侍とか三千歳花魁とかが出てくる話です。

登場人物のメンツを見れば、お馴染みの、といいたいのだけれど、「天衣粉上野初花」の全体の筋を知っていて歌舞伎を見る人なんて、明治大正の昔からほとんどいないはずです。
歌舞伎では河内山が松江邸で騙りをする場面と、直侍と三千歳花魁の別れの場面が「雪暮夜入谷畦道」(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)という題名で独立して上演されるのが通例で、その二つが続けて上演される機会さえめったにない。本作にも登場する(歌舞伎では敵役の)金子市之丞は、上の二つの場では姿を見せません。
子母沢寛の原作(未読)は、歌舞伎の人気キャラクターを使って、近代的な視点で自由に物語を編み直すという意図で書かれたのでしょう。

歌舞伎では河内山宗俊=希代の大悪党、片岡直次郎=いなせな色悪、という設定なのが、本作では、大河内傳次郎が演じる河内山宗俊は、まるで憂愁を秘めたテロルの首領みたいに、河津清三郎が演じる直侍は、社会の底辺に這いつくばる薄汚れた小悪人として描かれています。
どちらも名演だが、ことに河津の強烈な悪党ぶりが忘れがたい。

話は入り組んでいるのだが、黙阿弥の芝居ほどではありません。

・奥州棚倉藩家老大村典膳一味の不正を摘発しようとした金子市之丞(黒川弥太郎)が、江戸表に出仕している藩主に証拠書類を届けようとするのだが、家老一味に命を狙われる。
・密貿易商の森田屋清蔵は、生き別れになった妹の三千歳花魁の身請を、友人の河内山に依頼する。

……という二筋。

・金子市之丞がかつての主筋であることを知った森田屋は、身請けした三千歳を金子に添わせようとする。当の三千歳は真夫(まぶ=情夫)の直次郎に惚れきっている。
・金子から不正事件を聞いた河内山は、直次郎を先触れに仕立てて棚倉藩江戸表屋敷を訪れ、上野輪王寺の使僧の名を騙って、藩主に事件の内幕を告げ、口止め料を巻き上げる。

……という展開部で二つの筋がクロスする。ところが……。

・河内山の捨て身の活躍で復藩した金子市之丞は、世間体から遊女を妻・妾とすることを拒んで、河内山からたたき出される。
・騙りの事実が露見して、捕方に包囲された河内山は、三千歳に執着する直次郎を殺し、御用提灯に向かって泰然と歩いていく。

……なんていう、スーパーヒーローたちの活躍や散りぎわを爽快に描いた黙阿弥劇からは想像もできない、悲壮なラストシーンを迎える。
(ちなみにデータ上のあらすじがハッピーエンドになっているのは、この暗い結末が脚本の伊藤大輔か、マキノ自身が手を加えた、ってことなんでしょうか。)

大映映画らしく、奥行きのある野外セットの眺望がすばらしい。
銭湯の軒下で獅子舞が踊る風景をまっすぐに伸びた路地の彼方からクレーン撮影する場面とか、川向こうの町並みを望む長い橋を河内山とお銀が渡ってくるロングショットとか、江戸情緒が一気に立ちこめる気がして、感動してしまう。

けれども歌舞伎のキャラを前提にした「例によって」の話なので、河内山宗俊ってどんな人、というくらいの予備知識が必要です。
そのうえ、山中貞雄の『人情紙風船』を思わせるペシミスティックなムードが立ちこめているし、原作もの時代劇の場合の伊藤大輔らしく構成が綿密で厚ぼったいので、取っつきにくいところがある。
それでもマキノ演出らしく、女嫌いの河内山に惚れた船宿のおかみお銀(三浦光子)の恋心とか、河内山と森田屋の連帯感とか、河内山と住み込みの下働きの老婆との粋なかけあいとかで、しんみりスカッとさせます。

河内山の屈折した人物造形が見事だし、河津清三郎の直侍の、薄汚い、女に未練タラタラのダメ男ぶりが歯がゆくてたまらず、これは畢生の当たり役なんじゃないかと感じる。
ラストで河内山に殺されてよかった、これであの男も浮かばれた、と思えてしまうのは、凄いことなんじゃないか。

しかし、こんな男に惚れてしまう三千歳花魁の気持ちが理解できず、三千歳もあんまりいい女とは思えなくなって沈んでしまうのが、本作の欠点かな。

『浪人街』もそうだったけど、権力に立ち向かう主人公を描いたマキノ作品の、思いがけない濃厚なペシミズムに接すると、戦前戦中の日本の鬱屈を、ずっと背負ってきているんだなと感じてしまいます。

リメイクは、『天保六花撰 地獄の花道』(1955・東映)。

(DVD鑑賞 2008/05/08記)


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