帰ってきた モニターの中の映画館

日本映画(監督別)>マキノ正博/マキノ雅弘>浪人街

浪人街

監督: マキノ正博 

1928-1929年

製作: マキノプロダクション(御室撮影所)
総指揮: マキノ省三
脚本: 山上伊太郎
撮影: 三木稔

[第一話 美しき獲物]
出演: 南光明, 谷崎十郎, 根岸東一郎, 河津清三郎, 岡島艶子, 大林梅子, 市原義夫

[第二話 楽屋風呂解決篇]
出演: 南光明, 津村博, 根岸東一郎, 河上君栄, マキノ登六, 松浦築枝, 荒木忍, 川田弘三, 清浦新八

[第三話 憑かれた人々]
出演: 沢村国太郎, 荒木忍, 河津清三郎, 柳妻麗三郎, 泉清子, 沢田敬之助, 北岡よし江, 中村歌二郎, 川田弘三, 岡村義男, 浦路輝子, マキノ智子, 寺井幾夫, マキノ登六, マキノ潔, 尾上松緑


★★★設定がわかる程度の断片ながら必見

弁士(佐々木亜希子)付きの上映会。
現存しているのは第一話のクライマックスの8分と、第二話の70分ほどの断片なのだが、この日上映されたのは第二話の40分ほどと第一話の8分。
第二話から、話のつながる部分だけを寄せ集めてみせたのではないかと思います。

フィルムセンター所蔵の現存する部分のおそらくすべては、Talking Silents というシリーズの "Talking Silents 9 マキノ正博監督作品" としてDVD化されています。

第一話の物語はその後三度もリメイクされているから(『浪人街』1957)わかるのだが、現存する8分の断片に残された子恋の森の決闘は壮絶な活気にみちていて、やはりオリジナル版が最も優れていたのだと思わせる。

第二話、第三話は、浪人長屋を舞台にした、まったく別の話。
残されたエピソードから、第二話の設定がおぼろげながらつかめます。


*********************************************************************************

気弱でお人好しの浪人宮内甚内(根岸東一郎)が住む長屋所帯には、おせっかいで横暴な千馬平八(マキノ登六)が居候している。
甚内は、大事な娘に水仕事をさせないという条件付きで、裕福な商家の娘お蒔(河上君栄)を嫁に迎えるのだが、化粧ばかりして甚内に家事を任せきりのお蒔に、平八が腹を立てる。
女房の道理を教えようと、平八がお蒔に自分のふんどしを洗濯させているところに、お蒔の実家の母が訪ねてくる。平八の仕打ちに仰天したお蒔の両親は、あのいかれた居候を追い出すまでは、娘を実家で預かると言いだす始末。

彼らの隣には、お紋(松浦築枝)が老父倉橋九郎兵衛(荒木忍)と暮らしている。お紋に気のある平八は、九郎兵衛の留守を狙って彼女に言い寄るのだが、帰ってきた九郎兵衛から叩き出される。お紋はひそかに隣人の浪人白河三十郎(津村博)を慕っているようだ。

白河三十郎が最近、五十両の大金を手に入れたという話を聞き、甚内と平八はおこぼれをねだろうと躍起になっている。
じつは三十郎は、妻にしようとした女を身請けするために、河合又五郎(川田弘三)の護衛役として雇われ、金を手に入れたのだった。

お紋の弟重兵衛(岡村義夫)は、三浦家から伝家の名刀を盗み出して、お尋ね者の浪人となった身。お紋には三浦嘉左衛門(清浦新八)から、弟を助けるためだと言いくるめられ、貞操を奪われて一子をなした過去があった。
重兵衛はひそかにお紋を訪ねるのだが、追っ手の探索に勘づいて、愛人お吉(大林梅子)のもとに身を隠す。お吉はかつて**(失念)の妻だった女だ。

お紋の宅に乗り込んだ三浦は、女を責め立てて弟の居所を吐かせようとする。そこに現れた三十郎はお紋を助けようとして、三浦の用心棒となった友人の不破伝五左衛門(南光明)と刃を交わす。決着をつける気のない伝五左衛門の様子に、形勢不利と見た三浦は、その場を逃げ出していった。

*********************************************************************************


第二話「楽屋風呂」に「解決篇」という副題が付いているのは、山上伊太郎の脚本が遅れたために完成が封切りに間に合わず、いったん未完成の「楽屋風呂」を公開し、後日あらためて「楽屋風呂解決篇」として完全版を公開したから、らしい(どこでそう知ったかを忘れてしまって、情報源未確認ですが)。

黙阿弥劇の続きのような古めかしい家宝探索の話に、公開時の大不況下の世相を反映させた、鬱屈した浪人たちのやるせない生態を織り込んだのは第一話と同じ趣向で、自暴自棄になった彼らが運命の糸にたぐられるように、クライマックスの大殺陣になだれこむという筋書きだったのではないかと想像できます。

第一話で「おのれ 裏切ったか!」という罵声を「馬鹿言え、表返ったのじゃ!」という名セリフで切り返す根岸東一郎の、まるで藤山寛美のようなじゃらじゃらした芸が面白い。
歌舞伎の赤面(あかつら)みたいなメイクをした、向こう気の強い役の岡村義夫も「三浦屋敷に乗り込んで、五尺の体丁と張ろうか」なんていう粋なセリフを吐く。
スター不在の低予算の環境で、その日の撮影分の脚本を当日の朝に山上伊太郎から手渡されながら撮り続けたのだという、まるでジャズのアドリブのような役者の演技は、今見ても斬新。

『浪人街』三部作の全体はもちろん、今では失われた同時期の『蹴合鶏』(1928)、『首の座』(1929)といった幻の作品を観たくてたまらなくなってしまう断片でした。


(2009/6/12 シネマヴェーラ渋谷 活弁上映会 2009/6/13記)


< 目次に戻る

Google