[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」

帰ってきた モニターの中の映画館

日本映画>ロマンポルノ>発禁本「美人乱舞」より 責める!

発禁本「美人乱舞」より 責める!

監督: 田中登 

1977年

脚本: いどあきお
撮影: 森勝
音楽: 高田次郎
出演: 宮下順子, 山谷初男, 南寿美子, 工藤麻屋, 中島葵


★★★★☆日本映画を代表する傑作の一つ、というべき

伊藤晴雨という、竹久夢二に関する物語の脇役としてよく知られているこの特異な画家については、団鬼六の傑作小説「外道の群れ」シリーズや「伊藤晴雨物語」に、その異様な生きざまが活写されています。その晴雨の人生のなかでも、晴雨(山谷初男)と彼の三人目の妻、タエ(宮下順子)との悲劇的な結婚生活にスポットを当てたのが本作です。
ロマンポルノという枠組みに納めることが滑稽に思われるほどに、劣情どころか娯楽味さえも感じさせないような、厳しく真摯な作品に仕上がっていて、これだけの完成度があれば、(ロマンポルノという枠内からは望むべくもなかったけれど)カンヌで賞を取っていたとしても、ちっともおかしくありません。

希代の縛り絵師、伊藤晴雨が加虐の対象として選んだカフェの女給タエは、彼が見込んだ通り、画家の過酷な責めを、定められた運命のように受け入れる。しかし、ある夜、激しい交情のさなかに先天性の脳梅毒が発症して、女は痴呆となり、晴雨は女の生を背負うことになる……。
殺伐とした、救いのない物語のなかにあって、ときおり挿入される晴雨=山谷初男の独白のスッとぼけた口調は、唯一の息抜きだとも思えるのですが、その言葉は木訥でありながらも、「変態」の心の闇の深さを語って、人をゾッとさせます。

そう、この映画で伊藤晴雨は、もはやセックスとは別次元なのではと思わずにはいられないものに取り憑かれた、救いようのない変態として描かれているのですが、これまで妻というものを女中か事務員のようにしか考えていなかったという彼の素直な独白や、正気を失ったタエが口ずさむ、残酷な子守歌に導かれて、彼女の脳裏をよぎる赤ん坊の頃の記憶など、川の底をさらうように彼らの心中が吐露されるのを見ているうちに、いつのまにか彼らの心は、こちらの心に流れ込んでいます。
人はそれがどんないびつなものであれ、自分を映す鏡に、つい惹かれてしまうものなんです。

この映画は観る前に、ロマンポルノ館の「監督っ、殺してやる!」 という記事を読んでいたんで、宮下順子への加虐シーンをことさら壮絶な思いで(ちょっぴり、よくやるもんだと呆れながら)観ることになったんですが、観る者の感受性を逆転させるような迫真性は、役者たちの達者な演技をさらに超えた苦悶の表情に負っているのであって、過酷な女優の酷使は、やはり必然なのです。
もちろんそれは、彼らの演技を的確にフィルムにとらえる撮影技術やら、虚構の役柄に生命を与える美術やら、この場所でしかありえないと思えるロケーションやら、あらゆるものが、一分の隙もなく、役者を支えているからこそ活かされるものであって、この強靱な収斂力こそが、田中登の傑作を傑作たらしめているパワーなんだな、と思ったのでした。

(DVD鑑賞 2008/03/23記)


< 目次に戻る

Google