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濡れた欲情 ひらけ!チューリップ

監督: 神代辰巳 

1975年

製作: 三浦朗
脚本: 神代辰巳, 岸田理生
撮影: 前田米造
音楽: 山本正之
出演: 石井まさみ, 安達清康, 芹明香, 江角英明, 高橋明, 奈良あけみ, 谷ナオミ, 二条朱実, 間寛平, 丘奈保美, 浜村純, 松井康子, 小松方正


★★★★暴走する青春のパチンコ玉

これはまた、なんともいえない、クセの強いコメディ。
小学生の頃の通学路に貼られていたこの映画のポスターは、『悪魔のはらわた』のそれとともに、記憶のなかに刻み込まれることになったんですが、こんなけったいな中身だったとは。

見習い中の若い釘師(石井まさみ)とパチプロ(安達清康)の対決を軸に、ブ男ゆえに童貞を捨てられない釘師と、モテてモテて愛人だらけのパチプロが、それぞれのパートナーを見つけるまでを青春ドラマチックに描いてるんですけど、神代コメディとなると、当然ながら一筋縄ではいかない。

巻頭、いきなり登場するのは、轟々と燃える朝焼けに浮かびあがった大阪城。まるで鬼面の武者のシルエットのようにも見えるその偉容に、ええか、女ちゅうもんは押し倒してやってしまうこっちゃ、あとの始末はそれから考えたらええんじゃ、という、謎の老人の怒声がかぶさります。
続いて開店前のパチンコ店では、任侠道の儀式めいたパチプロと釘師の対決が行われるのだけれど、これも最初は意味がわからない。

やがてパチンコ店が営業を開始し、間寛平のヒット曲「ひらけチューリップ」が景気よく流れる店内で、開いたり、開かなかったりするパチンコ台のチューリップのショットも含め、朝焼けに燃える大阪城のイメージや、パチプロ vs 釘師のシーンは、まるで各エピソードをつなぐ蝶番(ちょうつがい)のように、以後劇中で繰り返し登場することになります。

パチンコ台のチューリップの開閉ショットが、コミカルな男女の交わりに軽いオチを付けるアクセントとして頻出するのは、ありきたりな手法だとはいっても心地よく、童貞青年の心の叫びなのか、と理解していた大阪城の夜明けは、やがて釘師に訪れる意外な人生の岐路にクロスすることになる。
そして、パチプロと釘師の対決は、いつの間にか菩薩に祭り上げられたスケバン少女(芹明香)との恋の成就を賭けた、男と男の戦いへと発展し……。

コロコロと意味を変えるそれらイメージの蝶番が、どこに転がるのか予想もつかない神代辰巳独特の軟体文脈をつなぎ合わせ、逡巡迂回を繰り返しながらも、泣き笑いの大団円へと終息するストーリーは、まるで釘にはじかれて不規則に躍動しながら、いつしかチューリップに納まるパチンコ玉の運動のよう。
パチンコの映画というだけではなく、映画のありかたそのものがパチンコそのものだという、常人には思いもよらぬ摩訶不思議な作品なんですが、その独特の語法を帯びたイメージを駆使した語り口が、作為的な設計を感じさせることなく、生理感覚的に無造作に鷲づかみされているのだとしか思えないというのは、さらに驚くべきことです。

大阪通天閣近辺の、やくざな商売に関わる若者たち、ともなれば、これほど喜怒哀楽をむきだしにできる役柄はないわけで、青春真っ盛りのパチプロと釘師は、心の叫びを吐き出しながら、走る! 走る! まるで、はじき出されたパチンコ玉のように。
自分たちの居所に碇を降ろした大人たち、老人たちが「釘」だとすれば、二条朱実、谷ナオミ、丘奈保美といった女たちは、コテコテにデコレートされたパチンコ台の「チューリップ」。快楽と金のためなら、どこでもパッと股間を開くわけです。

でも、最後には菩薩・芹明香が体現する、大切なのは愛なんだ、なんていう、使い古されたメッセージを、誰にも真似のできない言い方でめざましく言ってのけた本作は、ひねてこぢんまりしているとはいえ、やはり異例の傑作にちがいありません。

(ビデオ鑑賞 2008/03/23記)


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