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| 味見したい人妻たち 監督: 城定秀夫 2003年
脚本: 城定秀夫 ★★★★ 四天王+今岡信治の作品を除けば、「OLの愛汁
ラブジュース」以来の衝撃、というか、比較する相手がことごとくかすんでしまうほどの、すばらしい作品。 製薬会社に勤めるまじめな夫(田嶋謙一)と結婚して、幸せだけれど、どこか充足感のない新婚生活を送るヒロイン(KaoRi)。彼女はふとしたいきさつから、夫の留守宅でかつての教え子の高校生(白土勝功)と関係を結んでしまう。 ……そんな、ポルノグラフィの王道のような話。 教え子が、かつての憧れの女教師を床に組み伏せる、といったかたちで始まる、このふたりの初めての情事で、テーブルから落下した食器が次々に砕ける音が響くのもおそろしく効果的で、一夜明けて、夫婦の交わりを見た/見られたという興奮からふたりの欲情が加速する展開は、じつに自然で説得力があるのだし、ふたりが夫の会社の睡眠薬を大量に飲んでヘロヘロになりながら戯れたり、夫が朝食で食パンに塗る蜂蜜を身体に垂らしながら交わるあたりからは、猟奇的なムードが濃厚になり、物語は予想通りのダークな結末を迎えるかに思えるのだが、作品そのものはありきたりな退屈さや暗さから逃れて、軽妙で清潔な印象を最後まで保ち続ける。 一口に言って本作の魅力は、ごくありきたりな話が、どこまでも新鮮でみずみずしく見えてしまうという驚きと喜びにあって、まずそれを支えているのは、ごまかしなしに充実した細部の肉づけと、その的確な配置であると思う。 たとえば夫婦が住む家の二階の窓からは、司法試験の受験勉強を続ける男と、その彼女(橘瑠璃)が暮らすアパートの部屋が丸見えで、勉強もそっちのけに、ついセックスにふけってしまう彼らのコミカルな痴態を覗きながら、ヒロインと教え子がアフレコみたいにセリフをつけて自堕落に笑うあたりには、退廃的なユーモアが感じられるのだし、教え子がかつて、父親に殴られて聞こえなくなった左耳に、ヒロインが自分の気持ちをささやくあたりに漂う、暗い詩情も心地よい。 さらにはときおり登場するこの家の飼い犬までもが、一般映画でもまずお目にかかれないような驚くべき「演技」を見せるのだが、それらの細部が繰り返されて、物語のリズムを作り、またそれらの細部の変化が、ヒロインの心の変化を代弁するきめ細やかさは、まるで老練な職人芸のようで、改めてこの監督の若さが信じられなくなる。 もちろん本作のすばらしさは、ヒロイン役のKaoRiという女優の魅力に負うところも大きいわけで、特に演技の訓練がなされているようでもない新人の彼女に、演技力は期待できないのだけれど、たとえなにひとつ演技をしなくても、あらかじめ持ち合わせたいい顔やいい声、あるいはたたずまいが的確に配されるだけでも、映画というものは成り立ってしまうものなのだし、本作はその点でもぬかりがない。 KaoRiという女優は、小悪魔的だとか、女王様的だとかいう類型にカテゴライズされるほどのアクの強さのない、多少現実離れしてはいるけれど、きっとそのへんにいるにちがいないと思わせる普通の女の子なのだが、童顔のなかに垣間見える酷薄な印象が、あやうい精神状態のなかで輝きはじめるさまはこのうえなく魅力的で、丁寧なカメラワークも、そんな彼女の美しさを、あますところなくとらえている
(撮影は「美女濡れ酒場」の長谷川卓也)。 またこの映画では、先に上映された「猥褻ネット集団 いかせて!!」と同じように、ヒロインの心境がときおりインター・タイトル(サイレント映画ふうの字幕)で挿入されて、ヒロインの演技力不足を補うのだが、それが「帰って、って言わなくちゃ」とか「ダメ、って言わなくちゃ」とか、物語のなかで扇情目的に機能する言葉ばかりだというのがとてもスマートで、ポルノグラフィであることを逆用して、この使い古させた手法を、あざとさを感じさせずに使ってみせることにも、監督の鋭敏なセンスが感じられる。 JMDBでフィルモグラフィを見ると、この人の年齢に似合わない助監督経験の豊富さに驚いてしまう。じっくりと下積み経験を積んだ末に、女優への思い入れが濃い職人的な映画でデビューするところは、まるで澤井信一郎である。次回作に、おおいに期待。 シナリオタイトルは「押入れ」。 (2004年4月17日 新文芸坐第 「16回ピンク大賞」)
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