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せっかくのチャンスを、惜しい
新宿で所用を済ませて、ちょっと時間があるなと思いながらコマ劇場付近を歩いていると、ピッタリ開演時間だったので飛び込みました。
観客は40人弱、といったところ。なぜか老人が多かった。
樋口真嗣監督といえば、ヒグチしんじ名義の『ミニモニ。THE ムービー お菓子な大冒険!』しか観ていないんですが、これはなかなか楽しい作品でした。
どうせ今どき時代劇なんか作れないんだから、RPGの国のお話だということに徹してしまえば、意外とおもしろくなるのかもしれない、と淡い期待を抱いて観たのだけれど、かなりつまらない。
オリジナルの黒澤明の『隠し砦』自体、あの脚本家チームにしては出がらしを搾り取ったみたいな、底の浅さがみえる作品なので、オリジナルを越える、ということに関しては、狙い目だったのに。惜しいことをしたと思います。
ハリウッド映画っぽさを狙うんだったら、こんなふうに話を単純化して見せ場を派手にするのではなくて、さらにプロットを錯綜させて裏切りやらどんでん返しやらの連続のなかに小気味よく見せ場を織り込むのが正解ではないか。今の観客は、50年前の観客より、複雑なストーリーに目を回すことに慣れているはず。
「大作気分」の出し方にも問題あり。
いくら爆発しても、アクションしても、どうせCGだもんね、というのもあって、ちっとも大作に見えないのです。
数十人(金を運んだ100人ですか)のエキストラがニコニコして "THE
LAST PRINCESS" を出迎えるクライマックスで、こぢんまりと幕を引いて、スケールがちっこい。あそこで、ワーッと、画面を埋め尽くすくらいの群衆が熱狂しながら門から溢れ出てこないと締まらないですよね。
あれだと、まるでハンカチが5枚くらいしか翻っていない『幸福の黄色いハンカチ』ですわ。
脚本は、名セリフ「裏切り御免」をサンプリングしたリミックスヴァージョンでいかが、って感じでしょうか。
しかも、一国を揺るがすような裏切りならともかく、小さな恋の裏切りがピリリってのは、ほんと肩すかしです。そもそも松本潤と長澤まさみの恋とか、観ていてどうでもいいとしか感じられない。もっとちゃんと恋を描いてよ。
監督はインタビューで、こう言っています。
「武力で弱い者を抑え込むことが世界中で起きているだけに、侍を立派に描くのはどうかと思った。……オリジナルのラストシーンで、2人が正装した姫らからほうびをもらうんだけど、どこか高所から見下ろす視線を感じた。僕はその視点に立てないと思ったんです」
……違うでしょう。なにを勘違いしているのか。
封建制度下の特殊で抑圧された人間関係こそ逆にドラマの源だし、現代の観客の好奇心をそそる要素であるはずだけど。
最初から戦後民主主義教育を受けたみたいなお姫様やら侍やら下郎やらを出して、権威や身分制度の批判ができるはずがありません。
長澤の雪姫はものすごく高慢でサディスティックで、阿部ちゃんの六郎太はマゾっ気丸出しで姫を崇拝して、松本の武蔵はとことん狡猾な下郎で、宮川大輔の新八は低能で狂っていて――みたいな、現代劇ではありえないキャラがぶつかっていくうちに、予想外の恋やら信頼関係やらの出現に観客の溜飲を下げるべきだと思うんだけどなー。
その点、いいのは高嶋政宏のホモ侍だけでした。
(新宿コマ東宝 2008/05/13)