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| 悪霊 脚本: 水木洋子 (未映画化シナリオ) 1967年発表 オカルティズム百科 『ひめゆりの塔』(1953)、『浮雲』(1955)などの名脚本家、水木洋子のもう一つの顔がオカルトマニアだったことは、以前このサイトで書いた『妖婆』(1976)についての文章でも触れました。 そんなとき、市川市文学プラザの水木洋子資料室に行った友人が、水木洋子市民サポーターの会会長の加藤馨氏(同館の月刊シナリオに「水木洋子の一生」を連載中)とお会いして、「悪霊」のシナリオと肉筆原稿が閲覧可能だという確認をとってくれて、さっそく現地へ同行させてもらいました。 文学プラザで我々が目にしたのは、(加藤氏によれば当時「電話帳」と呼ばれていた)468枚におよぶ分厚い原稿の束と、初稿印刷台本二冊でした。 以下、不完全ながらストーリーを紹介。
『悪霊』 パリの町をびっこを引いて歩く景山丹(26歳)に、年増のフランス女性が親しげに声をかける。フランス語もできず、女性に面識のない丹は戸惑うばかり。彼女は、丹と瓜二つの双子のプレイボーイの兄、仁(26歳)が在仏中に引っかけた女だった。 後日、アパルトマンで撮影された記念写真に怪異が見つかる。たしかにそこにいたはずの画家の河上の姿が消えて、空っぽの椅子だけが写っている。その頃、河上は、自室で首を吊っていた。仁に菜穂子を寝取られたことが原因だと、仲間たちは噂する。 そんな仁の帰国を、茂木家の人々は面白く思っていない。仁は以前、幼なじみの茂木千登世(22歳)と婚約していたのだが、作曲家として名が売れたとたんに、金持ちの娘、菜穂子に乗り換えてしまったからだ。丹が千登世に思いを寄せていたことを知っている仁は、弟に千登世をくれてやるとばかりに振る舞うが、丹は兄のお下がりを選ぶことを拒んで、千登世への思いを断ち切るのだった。 心霊写真コレクターでもある茂木(63歳)と、千登世の兄である正人(25歳)に引き込まれて、丹は霊の世界に興味を持ちはじめる。 やがて仁の帰国後初の演奏会のリハーサルが始まる。仁自らがオーケストラを率いて自作を振る演奏会に、ダンサーの西山マリの出演が決まる。高慢な仁と、財界のバックが推した西山マリの軋轢を抑えるために、マリの附人のトヨがまめに立ち回る。 丹は松井から、兄には古い邪悪な背後霊が付いていて、いずれは非業の死を遂げるのだと聞き、それを信じる。家に付いた悪い霊を払うための除霊に励むのだが、先祖伝来の不気味な大黒像がペロリと舌を出したり、兄のベッドが血まみれになっていたりといった幻視をするようになる。その話を聞いた松井は、仁は痴情の果てに血まみれになって死ぬ運命にあるのだと断言する。丹は兄の不信心を心配し、曾祖父から三代続いて罪悪を重ねて非業の死を遂げた一族の男たちの業を背負っているのだと忠告をするのだが、まるで相手にされない。 リハーサルを重ねるうちに、丹とトヨが惹かれあうようになったのは、スターの引き立て役である日陰の身の境遇が一致したからかもしれない。丹は初めて、兄との競合を避けて恋人を得た喜びに浸っている。しかし、恋をして急に美しくなったトヨに仁が目を付ける。トヨが深夜の自室に、丹だと思って招き入れた男は仁だった。その後、執拗にトヨの体を求める仁を、彼女は拒みきれなかった。 そのうちにトヨの妊娠が発覚し、兄と彼女の関係を知った丹は激怒する。トヨが堕胎をしないと聞いた仁は、弟とトヨをくっつけて自分の不品行の後始末をさせようと考える。丹ははじめて兄への造反の思いを募らせ、事実を公表して兄と菜穂子の婚約を破談にしようとまで考える。 道すがら野犬に襲われるというアクシデントに見舞われながらも、丹とトヨは東京に戻ってきた。 やがて演奏会の当日。丹は極度に昂揚したそぶりを見せて、周囲を困惑させる。トヨが差し出したデザートを、怖れるように跳ね飛ばしてしまう。 その後。 [終] ***********************************************************
茂木家の人々が登場していきなり心霊談義をはじめたり、テレビで心霊学の教授が「ノクトビジョン」「ボディエレクトロン」「エクトプラズム」など「科学」的な心霊学のタームを解説したり、兄弟が先祖の悪行を想像する時代劇シーンが挿入されたり、UFOの実在に話題が及んでUFOの研究所に寄り道をしたり。 おそらく水木は、典型的な愛憎ドラマのなかに超常現象とその解説を網羅的に羅列し、かつ実在の心霊学者たちを(もしかしたら霊能者も)シネマ・ヴェルテ的に登場させる、「オカルティズムの教養映画」を目指すことにのみ注力していたのだと想像されます。 このままでは映画化不可能な、まったく呪われたシナリオであり、しかもあきらかな失敗作なんですが、もしも当時、水木の意図が完全に近いかたちで実現できるような状況にあったら、『幻の湖』をはるかにしのぐ怪作が誕生していた可能性もあります。
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