★★★☆
高機能、低カロリー
米、仏、スペイン合作。
「テシス」という1996年の作品で、「ミツバチのささやき」の子役、アナ・トレントを使っているスペインの監督だから、期待したとおり80年代の良質なヨーロッパ映画のイメージを備えているし、監督自身も特典ディスクのコメントで、「ミツバチのささやき」を意識した演出について言及している。しかしエリセのような「作家性」で見せる映画を作る人ではなくて、もっと高機能、低カロリーである。
エリセの映画ならば、中心課題に祭り上げられそうな西部劇的な構図を持つ場面を、この監督は人に指摘されて気づいたとコメントであっさり告白してしまったりする、無防備なところもある。
エンターテインメントとして、すなおに高水準だといえる作品だ。
これが初めて観た監督作なので、なんともいえないが、ハリウッドの古典にできるかぎり近づいてみようという試みのようなのだが、周辺諸国の映画に期待してしまう、意表をつくアプローチはない。
ベンダースの「ハメット」のような、古いハリウッド映画の撮影技術そのものに執着した擬古典映画と比べると絵が薄く見えてしまうのは、照明の違いだろうか。
グレースという役名で登場して、嫌でもグレース・ケリーを思い起こさせるニコール・キッドマンは、静脈がピクリと動くのを感じさせるような繊細な演技。しかし当のグレース・ケリーと比べると、(よくビデオ映像で目にするように)かすかに現代女性の不摂生、のようなものが見えてくる。
結局自分が、アイスクリームそのものを食べることより、蓋にへばりついたアイスクリームをぺろりとなめる方が好きだと言っていることが、わかったということなのだが。