★★
名作なんだそうですが
[ネタバレ反転]
昔はこんなもので驚いてたのかなあ、なんて、隔世の感に浸ってしまうサスペンス・ミステリ。古典的名作らしいですけど、ぜんぜんおもしろくなかったです。
観始めてしばらくしてから、昔懐かしいボアロー&ナルスジャックなんかだったら、こんなふうなオチが付いてお終いなんだよね、とか考えていると、本当にそういう結末に向かうしかなくなって、実際にそうなってしまったので、なんだこりゃと思ったら、ボアロー&ナルスジャックの原作ものだった。どんでん返しが命のミステリもので、すっかりネタが割れているのを我慢しながら観るのはつらい。
本作の公開後、自分たちの原作に、ヒッチコックが興味を示したことを知ったボアロー&ナルスジャックは、いかにもヒッチコックが好みそうな小説「死者の中から」を書いて、みごとヒッチを引っかけてしまう。しかしそれでもヒッチコックは一枚上手で、「死者の中から」を原作にした「めまい」において、あえて物語の途中でトリックをばらしてしまうという荒技を敢行する。
彼らの原作が、すぐに賞味期限切れになることを見抜いた慧眼だったわけで、そこがヒッチと本作の監督の才能の差だと思う。死者からクリーニングされた背広が届くとか、集合写真に死んだはずの夫が映っているとか、子供だましのドッキリ・エピソードを採用しているところなんかは、根っからのそれだというよりも、職業としてサスペンスの監督を選び、世評を当て込んで作った作品のヌルさを感じます(しかも大まじめだから笑い飛ばせない)。
いや、名作なんだから、まじめに観なくちゃね。
室内をうろうろする人物に合わせて、キャメラを頻繁にパンさせるイライラ感の演出だとか、女優を美しく見せる古典的な照明だとか、情け容赦のないヴェラ・クルーゾー(監督の奥さん)の憔悴していく演技や
[ 断末魔の描写 ] だとか、後世のお手本になる場面がたくさんある。
でもやっぱり、水死体が死体置き場から運ばれてくる様子を延々と見せてしまう、即物的な冷酷さを感じさせはするものの、ストーリーの運行をまどろっこくしてしまう描写なんかを退屈しながらながめていると、サスペンスというジャンルには、イギリス映画のサバサバした展開や、アメリカ映画の省略が利いた語り口が似合っているのだと、あらためて思ったのだった。