★★★★
とんでもない完成度
「悪魔の水車小屋」1949
「二つの霜」1954
「電子頭脳おばあさん」1962
「天使ガブリエルと鵞鳥夫人」1964
今までチェコのアニメーションを観る機会を逃してきたが、中古品でやっと手が出た。
作品がどうのというより、観る側がそれを観るに値するかというレベルなので、ほんとうは点数がつけられない。
「悪魔の水車小屋」は、トルストイを思い出させる、民話に基づいた話。
片足が義足の、手回しオルガン弾きのおじさんと、水車小屋に住む悪魔の対決がメインだが、おじさんと水車小屋を気にかけている少年の幼心に宿った夢想だと考えることもできる。
水車小屋に泊まったおじさんがベッドの敷布をめくると、蜘蛛やゴキブリが溢れだしてくるのをきっかけに、次々と押し寄せる怪異現象と、悪魔退治の顛末のめまぐるしさは驚異的だし、分厚く塗った油彩のような色彩と特異な造形美の、古典的な品格がすばらしい。
それから、最近の映画ではほとんど見ることができない、立派な照明も。
これは凄いなと驚いたのだけれど、やはり児童向けの作品であることに、ちょっと戸惑いがある。
「二つの霜」は、パペット・アニメに加えて、二人の霜の精がセルアニメで描かれている。
森に住む霜の精が、村の二人の男にいたずらをする話で、ちょっとした教訓話を演じる霜の精を除いてみたとしても、二人の男の日常の一こまを描いた小品になっているところがおもしろい。
まるでゴーゴリの短編の読後感のような普遍性がある。
「電子頭脳おばあさん」は、空中移動装置や、とてもおっかないロボット乳母が登場するSF作品。
詩的なジュブナイルSFを、そのまま克明に造形したような機械の数々が楽しい。
前二作のような民族臭が皆無で、殺伐とした未来都市が舞台なのだけれど、そのぶん、主人公の少女の子供心にぴったり寄り添った物語になっている。
子供の恐れや喜びや、どんなことで心が踊り、どんなことをされれば心が安らぐのか、なにを見てどんなことを思うのかという心の動きが、せつないくらいにありありと描かれていて、どんな場所で育っても子供は子供なのだと、見ていて嬉しくなる。
「天使ガブリエルと鵞鳥夫人」は、うってかわって大人向けの作品で、これですっかりトルンカに魅了された。
「デカメロン」の原作を、コメディア・デラルテふうに脚色した物語を、さらにパペットアニメで撮る、という手の込んだ作風。
与太者が修道士に化けるまでのピカレスクふう顛末を、タイトルバックの切り絵アニメで見せてしまうのがしゃれている。
一切の無駄のない展開には、長編一本分の充実感があるいっぽうで、「鵞鳥夫人」の寝室から運河に飛びこんだニセモノ修道士を、追っ手がゴンドラで追いかけてくる場面なんて、短いながらもたっぷりと詩情もたたえていて、道化役の老人もじつにいきいきとしている。あっけにとられる完成度だ。
前作を見て、子供にエロや暴力に溢れた映像を与えるってのが、どんなに悪いことかと反省した直後の、あっけらかんとした艶笑譚にびっくりするのだが、姦淫を冒した二人には、ちゃんとそれぞれに罰が下される。
無声映画としての表現技法の極致を見せられる思いがするのだし、ニセモノ修道士の、人間の俳優顔負けの名演と、「鵞鳥夫人」のお色気も凄い。
「鵞鳥夫人」の、無知で、純粋で、高慢な「かわいい女」ぶりは、やっぱりチェーホフやレスコフなど、ロシアの作家を思い出してしまうのだが、チャペックとクンデラしか知らないチェコの小説って、どんなものなのか。