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リラクタント・デビュタント
The Reluctant Debutante

監督: ヴィンセント・ミネリ Vincente Minnelli

1958年

製作: Pandro S. Berman
脚本: William Douglas-Home, Julius J. Epstein
撮影: Joseph Ruttenberg
音楽: Eddie Warner
美術: Jean d'Eaubonne
衣装: Pierre Balmain, Helen Rose
出演: Rex Harrison, Kay Kendall, John Saxon, Sandra Dee, Angela Lansbury, Peter Myers, Diane Clare


★★★まとまりのよいコメディ

題名を直訳すると、嫌々ながら社交界デビューをする人、ってことで、うまく訳せない。
舞踏会はイヤよ、とか、ロンドンのアメリカ娘、とか、うーん、いまいちですね。

スコットランド出身のウィリアム・ダグラス=ホームの原作戯曲は、"drawing-room comedy" (客間喜劇)というジャンルの作品らしい。裕福な階級の人々が客間で交わす気のきいた会話を呼び物にした風俗劇で、代表的な書き手がノエル・カワードであり、オスカー・ワイルドやサマセット・モームも作品を残しているという話を聞くと、なんとなく、どんなものかが想像できます。
英国での前評判を聞いた MGM が映画化権を手に入れたものの、ブロードウェイではそれほどヒットせず、それでも映画化を諦めなかったパンドロ・S・バーマンの企画を、ミネリが引き受けたのだそうです。

結果的に『恋の手ほどき』、本作、『走り来る人々』が続けて公開された1958年は、ミネリ最大の当たり年になり、本作でも充実したコメディの手腕を見せることになりました。

以下、*** 内はネタバレのあらすじです。


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お話。
ロンドンで暮らすイギリス人のブロードベント夫婦、ジミー(レックス・ハリソン)とシリア(ケイ・ケンドール)のもとに、17歳になったジミーの前妻の娘、ジェーン(サンドラ・ディー)が、アメリカから訪ねてくる。
おりしもロンドンは、舞踏会の季節。そこでは、ちょうど彼女の年頃の少女が "デビュタント" として社交界デビューを果たすのだった。

おせっかいやきのいとこ、マーベル(アンジェラ・ランズベリー)から煽られた継母のシリアは、舞踏会でジェーンに似合いの男性を見つけようと大張り切りになる。おかげで一家三人は、連夜のパーティ通い。嫌々ながらおつき合いするジミーは毎晩酔いつぶれ、ジェーンは品行方正な上流階級の紳士たちのお相手に、退屈しっぱなしだった。
継母のお薦めは、デヴィッド・フェナー(ピーター・マイアーズ)という、みるからに官僚的でオタクっぽい青年なのだけれど、ジェーンは同郷だからと紹介されたアメリカ人青年、デヴィッド・パークソン(ジョン・サクソン)に惹かれる。

しかしデヴィッド・パークソンは、「お下品な」ロックバンドのドラマーだということがわかり、しかもマーベルがあることないこと、夫妻にパークソンの不品行の噂を吹き込むものだから、さあ大変。
娘に悪い虫を付かせてなるものかと、夫妻はパークソンを遠ざけるのだけれど、ちょうど彼は大叔父の葬儀のためにイタリアへと向かうことになり、夫妻は胸をなで下ろす。

さてこの隙に娘に良縁をと、継母はデヴィッド・フェナーを晩餐会に招こうするのだけれど、なんと同じ「デヴィット」違いで、ロンドンに戻ってきたばかりのデヴィッド・パークソンを間違って招待してしまう。
晩餐会ではふたりの「デヴィット」のうち、フェナーがキモオタぶりを露見させ、ベランダに連れ込んだジェーンにネトネトとキスを迫る。フェナーに平手打ちを食らわせたジェーンは、父親と継母の執拗な監視をすり抜け、パークソンと手に手を取ってナイトクラビングに出奔。若いふたりは、すっかり愛し合ってしまうのだった。

さてその深夜。
家までジェーンを送ってきたパークソンを相手に、父親と継母は大慌て。
隣室から盗み聞きをしたり、ジェーンを寝室に追いやったり、パークソンに説教をしたり……。
四人が居間を出たり入ったりの大混乱の末に、パークソンはジェーンにキスをして、大叔父の没後、爵位を継ぐことになったのだと告白する。一方で父親は、パークソンの毅然とした人柄に、次第に惹かれていく。

翌朝、一家を訪ねてきたのは、花束を抱えたデヴィッド・フェナーで、彼はジェーンにプロポーズをして即座に断られる。良縁が不意になったことを悲しむ継母と、パークソンが追い払われたことを悲しむジェーンに、父親は新聞記事で読んだポジターノ公爵を招待するのだと告げる。

次の舞踏会。
デヴィッド・フェナーは早くも、マーベルの娘のクラリッサと結ばれている。
ドア係がポジターノ公爵の名前をアナウンスすると、そこに現れたのはデヴィッド・パークソンだった。再会の喜びに満ちてダンスを始めるジェーンとパークソン。
呆然として説明を求めるシリアの唇を、ジミーは、理由はあとでと、キスでふさぐのだった。

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本作の見どころはなんといっても、繰り返し描かれる華やかな舞踏会のシーンです。
ピエール・バルマンのシックなドレスを着こなしたケイ・ケンドールをはじめ、豪華なファッションに身を包んだ男女が優雅に舞うパーティシーンは、いかにもミネリ好み。
しかし、残念ながら当日の上映フィルムは退色が激しく、ほとんどセピア色に褪せた画面からは往年の絢爛豪華な色彩を想像するしかなく、しかもシネスコサイズをアメリカン・ビスタにトリミングしたものでした。

客間喜劇というジャンルの名称通り、舞踏会のシーン以外の物語の主要な舞台は、ブロードベント家の客間に集中しています。
同じ場所を同じ登場人物が何度も出入りする繰り返しも、演出のテンポのよさと出演者――とくに『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授役で有名なレックス・ハリソンと、実生活での妻でもあるケイ・ケンドール――の巧みな芸で、まったく飽きさせません。
ハリソンとケンドールは、イギリスのプチブル階級という役柄そのものの印象で、誇張されたドタバタのギャグシーンも、品よくさらりと演じて、見る者を楽しませてくれます。

若いカップル役には、当時のティーンアイドルがキャスティングされていますが、それほど複雑な演技が要求される役ではないので、無理がありません。
アメリカ人青年のデヴィッド(ジョン・サクソン)が、じつは名門の貴族だったという貴種流離の趣向はいささかおざなりだけれど、アメリカ人のティーンエイジャーたちを堂々とふるまわせて、イギリスの地位ある大人たちが右往左往するというシチュエーションの逆転が笑いを誘います。
(ちなみにロックバンドのドラマーだと揶揄されるデヴィッドが演奏しているのは通俗的なジャズですが、テンポの速いジャズがロックと呼ばれた一時期もあったのだと、何かで読んだことがあります。)

際立った見せ場を誇示するようなタイプの作品ではありませんが、生気ある役者の演技と、それにぴったりと寄り添ったテンポ感、豪華な色彩や風俗描写など、総合的な演出力の高さを見せつける、中期ミネリの円熟したコメディ作品です。
本作以降(次作の『走り来る人々』から)ミネリは変容を遂げ、一連の奇妙で比類のない作品を残すことになります。


(2006年6月16日 アテネフランセ文化センターにて)

(14 August, 2006 ©taraga)


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