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ヴィンセント・ミネリ>各作品の感想>パナマ・ハッティ

パナマ・ハッティ
Panama Hattie

監督: ノーマン・Z・マクロード Norman Z. McLeod

1942年

製作: Arthur Freed
原作戯曲: Herbert Fields, Buddy G. DeSylva
脚本: Jack McGowan, Wilkie C. Mahoney
撮影: George J. Folsey
音楽: Cole Porter
美術: Cedric Gibbons
出演: Ann Sothern, Red Skelton, Rags Ragland, Ben Blue, Marsha Hunt, Virginia O'Brien, Alan Mowbray, Dan Dailey, Jackie Horner, Lena Horne, The Berry Brothers


★★〜★★★ミュージカル・ナンバー演出の力量

米盤レンタル落ちビデオで鑑賞。日本未公開作品。

1939年、アーサー・フリードからスカウトされてMGMに入社したヴィンセント・ミネリは、43年に「キャビン・イン・ザ・スカイ」を撮って監督デビューを果たすまでの間、脚本の校閲やデザイン、ミュージカルシーンの演出を行ってMGM流の映画製作を学びました。

本作は監督就任前年の作品。
物語のクライマックスに置かれた、ほぼ五分間におよぶレナ・ホーンのステージを、ミネリが演出しています。
ストーリーとのからみがなく、彼女自身として登場したレナ・ホーンが歌う場面は、あきらかに別撮りされた、独立したシークエンスです。

監督は『御冗談でショ』(1932)、『ダニー・ケイの牛乳屋』(1946)、『腰抜け二挺拳銃』(1948)などのコメディ作品で有名なノーマン・Z・マクロード。そのせいか、もともと軽いコメディだった原作戯曲が、さらに軽いファルスになり、中身のないもの(それどころか、別の意味を持つもの)に改編されています。

以下***線内はネタバレのあらすじ。


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ハッティ・マロニー(アン・サザーン)はパナマのクラブ、"フィルズ・プレイス" の陽気な花形歌手。
ハンサムでリッチなディック・ブリアード軍曹(ダン・デイリー)との結婚を考えている。
ディックには前妻との間に12歳になる娘・ジェリー(ジャッキー・ホーナー)がいて、後見人を亡くしたためにパナマへ父を訪ねてきた。ジェリーにはイギリス紳士然とした執事・ジェーキンス(アラン・モーブレイ)が従っている。
ハッティのファンである間抜けな水兵三人組――レッド(レッド・スケルトン)、ラッグス(ラッグス・ラグランド)、ローディ(ベン・ブルー)――もハッティの恋に味方して、あれこれと手を焼こうとする。

ハッティはジェリーに会うために、彼女なりに盛装するのだが、突飛なファッションセンスをジェリーに笑われてしまう。いっぽうでハッティの親友フロー(ヴァージニア・オブライエン)は、ジェーキンスに一目惚れした様子。ディックに気のある提督令嬢のレイラ(マーシャ・ハント)は、ハッティに対抗意識を燃やす。

ふたたびジェリーのもとを訪ねたハッティは、ファッションに関する彼女の忠告を素直に受け入れて、「友達になろう」と歌い、彼女とすっかり仲良しになる。
しかし楽屋を訊ねてきたレイラから、貧乏な歌手とリッチなディックは釣り合わないと忠告されたハッティは、身を引いてニューヨークに旅立とうと決意する。

水兵三人組は偶然にスパイのメッセージを入手して、彼らの隠れ家である空き家に侵入する。
そこで爆弾が製造されていることを発見するのだが、スパイたちの銃撃に遭い、隠れ家は炎上。水兵たちは命からがら逃げ出してしまう。

翌日、"フィルズ・プレイス" で皆に別れを告げるハッティ。
しかしレイラのボーイフレンドが彼女を侮辱したことから、大乱闘が勃発。
大暴れをした水兵三人組も、MPに収監される。
ハッティが旅立つことを知ったディックは、大慌てで彼女を追いかける。

その後、水兵たちが殴り倒した相手は、じつはスパイだったことがわかり、彼らは英雄に祭り上げられる。
祝いの席に、入籍を済ませたハッティとディックも到着。
ショックを受けたレイラは、水兵のレッドといいムードに。
フローやゲストのリナ・ホーンの歌も加わって、宴席は盛りあがる。

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……って、なんだこりゃの展開。
ちなみに原作の舞台は、どうやらこんな話だったらしくて、ムチャクチャな改編です。

コメディを得意とするマクロード監督作品らしく、道化役の水兵三人組が、狂言回しとしてではなく、ほとんど主役扱いされて活躍します (彼らの芸はかなりおもしろいが、他のレッド・スケルトン出演作から類推すると、真骨頂発揮までには至っていない気がします)。
タイトルロールのアン・サザーンが独唱するのは、わずか二曲という惨状。

なんといっても、日本軍による真珠湾攻撃直後に作られた、戦時下映画です。
ハッティの恋人の職業も、パナマ運河の管理会社社員から軍人に変更されているようだし、外国人を見たらスパイと思え、スパイ活動を撲滅せよというメッセージが頻出します (英国紳士の服装をした執事のジェーキンスさえも、水兵たちからスパイだと疑われます)。

コール・ポーターの楽曲は、あいかわらずすばらしいんですが、舞台の楽曲がずいぶん削られて、オリジナル楽曲が挿入されています。
ラストは出演者全員が、記念撮影のように正面を向いて合唱する、お決まりのパターン。
ほがらかな軍歌調のマーチのなかで、アン・サザーンは "ジャップを倒せ" と歌ってるようです。
とどめはエンドマークにオーヴァーラップする、真珠湾攻撃を描いたイラストと、当劇場で軍事公債を買おう、というメッセージ。
終戦後も日本で公開されなかったのは、当然ですね。

ミネリの演出パートは、リナ・ホーンの歌と、ザ・ベリー・ブラザーズという三人の黒人ダンサーの共演。
これがすばらしい。
小規模なステージとはいえ、楽曲の展開にぴったりより添ってなめらかに移動するクレーン撮影を見ると、すでにミネリの個性が確立していたことがわかります。
歌うリナ・ホーンの前を、台車に乗ったドラムセットが移動したり、ザ・ベリー・ブラザーズの登場シーンで、スーツ姿の彼らを大きく前景に配置して、奇妙に奥行きのあるスタイリッシュな構図を作ったり、斬新なアイディアがギッシリ詰め込まれ、歌とダンスの魅力を最大限に引き出しています。

歌唱や演技の全容をきっちりフィルムに収めるという基本に加えて、カメラの動きそのものが演出に加わる大胆な手法は、目の肥えた人々から天才の出現だと注目されたにちがいないと納得できる、傑出したミュージカル場面でした。

さて、ミネリの演出部分以外で印象的なのは、ハッティの親友を演じるヴァージニア・オブライエンの、表情をまったく変えない、機械人形みたいな動きと歌唱です。
こういう人形めいた美女のキャラクターは、ミュージカル作品に限らず、ミネリの晩年の作品にまでずっと登場するんですが、こういうキャラというのは、当時の定番だったのでしょうか。あるいはこの作品に接したミネリが、自身の演出に取り入れたのでしょうか。気になります。

(01 September, 2006 ©taraga)


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