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キスメット
Kismet

監督: ヴィンセント・ミネリ Vincente Minnelli

1955年

製作: Arthur Freed
脚本: Charles Lederer, Luther Davis
撮影: Joseph Ruttenberg
音楽: Bob Wright
原曲作曲: Aleksandr Borodin
美術: E. Preston Ames, Cedric Gibbons
出演: Howard Keel, Ann Blyth, Dolores Gray, Vic Damone, Monty Woolley, Sebastian Cabot, Jay C. Flippen, Mike Mazurki, Jack Elam, Ted de Corsia, Reiko Sato, Patricia Dunn, Wonci Lui, Julie Robinson


★★☆心ここにあらず、という気も……

輸入レンタル落ちビデオで鑑賞。
アラビアン・ナイトの世界をミュージカルに仕立てた作品。
テレビサイズにトリミングされた小さな画面で観ると、取り柄の少ない本作の価値がさらに減じるような、むごい状況での鑑賞を強いられることになります。

もともとは舞台劇で、1920年(サイレント。監督: Louis J. Gasnier)、1930年(監督: John Francis Dillon)、1930年(監督: William Dieterle)、1944年(監督: William Dieterle)と、本作以前に4度もハリウッドで映画化されていています。
舞台版はかなり残酷な復讐劇だったようなのだけれど、ロバート・ライトとジョージ・フォレストによるミュージカルの舞台化を経たのちに製作されたミネリ版は、ほとんどコメディに近い。

アーサー・フリードから本作を監督せよと命じられたミネリは、念願の企画『炎の人ゴッホ』(1956)の準備に集中したかったこともあって、いったんは自分向きの題材ではないと断ったのだが、ドア・シャリーからこれを撮らなければ『ゴッホ』を撮らせないとまで言われて、仕方なく引き受けたんだそうです。
中世のスコットランドを再現した『ブリガトーン』のまずまずの成功を評価しての起用という、MGMの判断は間違ってはいませんが、本作は「キスメット(運命)」のいたずらを主題にした、いわばアラブの世話もので、ミネリが好む心理的なファンタジーの要素は含まれていません。

そのうえミネリは、『炎の人ゴッホ』の製作が始まると、リテイクの撮影をスタンリー・ドーネンに任せて、『ゴッホ』の企画参加ために、さっさとロンドンに旅立ってしまったわけで、本作は彼のフィルモグラフィ中、異例なほどにやる気のなさが滲みでた作品になってしまいました。

けっして弛緩しているわけではないんですが、演出に創意を加える情熱もなく、ただ撮ってるだけだと感じられる場面がほとんどです。かなりゴージャスなセットを組んだ、それなりの大作なんですが、メトロカラーのべっとりとした色彩で、ハリウッド流にアラブっぽく作られた美術が隙間なく詰め込まれた画面は鈍重な印象で、しだいに退屈を誘います。
唯一、美術的なめざましさを感じさせるのは、王宮の中庭を行進するカリフの長い行列が、手前の池に影を落とす壮麗な場面でしょうか。これはとくに、ワイドスクリーンで堪能したいところです。


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物語。
舞台は1000年前のバグダッドの都。
乞食同然の生活を送る詩人のハジ(ハワード・キール)とその美しい娘マーシナ(アン・ブライス)が登場。
予言者になりすまして、大金をせしめたハジは、泥棒に間違えられて警察に捕らえられる。
宮中で裁きを受けながらも、口八丁手八丁で宰相ワジール(セバスチャン・カボット)に自分を魔法使いだと信じさせ、妖艶な宰相の妻(ドロレス・グレイ)を味方にして、貴族の地位を与えられる。
いっぽうで娘のマシーナは、お忍びで町を訪れた若いカリフ(ヴィック・ダモン)と恋に落ちる。マシーナはカリフを、庭師だと思いこんでいる。
マシーナを自分の妾にして、カリフの地位を狙うワジールの奸計に気づいたハジは、機転を利かせてワジールを倒すことに成功。カリフとマシーナはお互いの素性を知り、幸福に結ばれる。
めでたし、めでたし。

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マシーナ役のアン・ブライスや宰相役のセバスチャン・カボットは凡庸だし、ハワード・キールの押しつけがましい熱演と、若いだけで威厳のないヴィック・ダモンのカリフには、あまり好感を持てません。
唯一すばらしいのは、宰相の妻役のドロレス・グレイで、彼女のいかにもショービズ魂を感じさせるキレのいい演技を見ていると、映画への出演作が少ないことが、とても残念に思えます (こういうコミカルでアダルトでコケティッシュな役って、個人的に弱いんです。『酔拳2』のアニタ・ムイとかね)。

アラブ風の音階を使った楽曲はそれなりに印象的ですが、やはり際立って耳に残るのは、クレジットから流れて、劇中でも繰り返し演奏され、歌われる楽曲「ストレンジャー・イン・パラダイス」 "Stranger in paradise" です。ボロディンの歌劇「イーゴリー公」の「韃靼人の踊り」のメロディをアレンジしたこの曲は、のちにジャズのスタンダード・ナンバーにもなっています。
同じくボロディンの「弦楽四重奏曲第2番」から旋律を取った、アン・ブライスが可憐に歌う「ビーズと腕輪」 "Baubles, Bangles And Beads" も、人気曲のようです。
離れた場所にいる、相手の名前も知らずに恋するヴィック・ダモンとアン・ブライスが、気づかないうちに同じ曲をデュエットしてしまう趣向は、『晴れた日に永遠が見える』(1970)のESPによるデュエットを予感させるようで、楽しいものでした。

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さて本作には、ハーレムに献上される女たちのなかに、"アバブのスリー・プリンセス" と紹介される三人の東洋の女性が登場して、繰り返し目立つポジションでダンスを踊るのが、日本人の目からするとなんとも奇妙です。 "アバブ" というのはよくわからないが、どう見ても中国の雑伎の踊り手とか、くノ一みたいに見えて、苦笑を誘います。
そのなかに一人、日本人らしき女優さんが混じっているんですが、IMDbでは彼女らは、"Reiko Sato, Patricia Dunn, Wonci Lui" とクレジットされています。やっぱり日本人だったんだ。
で、気になる "Reiko Sato" の出演作リストを見てみると……。

なんと "Supa jaiantsu - Kaiseijin no majo" (『スーパー・ジャイアンツ 怪星人の魔城』)とか "Ama no bakemono yashiki" (『海女の化物屋敷』)に出演してると書いてるじゃないですか! ええっ、新東宝の女優さんがハリウッドに進出してたんだ! 唖然。

……しかしよく見てみるとこれ、たぶんIMDbが "Reiko Sato" と "Reiko Seto" (つまり瀬戸麗子)を混同して、誤記してるだけのようです。 "Reiko Sato"(レイコ佐藤)は、この人。別人でした。
ついでに見つけたのでいうと、この通訳事務所って、この方のものなのかな?

(20 August, 2006 ©taraga)


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