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アイ・ドゥード・イット
I Dood It

監督: ヴィンセント・ミネリ Vincente Minnelli

1943年

製作: Jack Cummings
脚本: Sig Herzig, Fred Saidy
撮影: Ray June, Charles Rosher
音楽: Ted Fetter, Count Basie, Lew Brown, Gene de Paul, Vernon Duke, Sammy Fain, Ralph Freed, Richard Myers, Cole Porter, Don Raye
美術: Cedric Gibbons
テクニカル・アドバイザー: Buster Keaton
振付: Eleanor Powell
出演: Red Skelton, Eleanor Powell, Richard Ainley, Patricia Dane, Sam Levene, Thurston Hall, Hazel Scott, Jimmy Dorsey, Helen O'Connell, Bob Eberly, John Hodiak, Butterfly McQueen, Marjorie Gateson, Andrew Tombes


★★☆やむをえぬ失敗作

例によって、米盤レンタル落ちビデオで鑑賞。

成功を収めた処女作『キャビン・イン・ザ・スカイ』に続いて、ミネリが監督を任された1943年公開のミュージカル・コメディです。
戦時下に製作された低予算作品であり、ミュージカルシーンの随所にミネリらしい演出の冴えが見られるとはいえ、さまざまな事情から、一種の珍品的様相を呈しています。

以下、***線内はネタバレのあらすじです。


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ジミー・ドーシー・オーケストラの演奏会の最前列に陣取って、演奏もそっちのけでゲストのミス・コンスタンス・"コニー"・ショウ(エレノア・パウエル)を見つめる、立派な身なりの青年(レッド・スケルトン)。
彼はコニーの出演するショーには必ず顔を出し、ファンへのキス会にも熱心に並ぶ。
じつは彼、ジョーは、ホテルのクリーニング・サービス店で下働きをするパンツ・プレス担当者で、顧客から預かった洋服をちゃっかり着込んでは、連夜コニーの追っかけをしているのだった。

その頃コニーは、以前から関係のあるショーの共演者、ラリー・ウェスト(リチャード・エインリー)が、歌手のスレッタ(パトリシア・デーン)と浮気をして、自分を冷たくあしらうことにやきもきしていた。
パーティ会場でいちゃつくラリーとスレッタに見せつけてやろうと、コニーは会場に居合わせた、自分のファンとして見覚えのあるジョーとむりやり同席する。憧れの女優に迫られたジョーは、偶然鉢合わせをした洋服の持ち主から逃げ回りながらも、有頂天になってコニーとダンスを共にする。

雇い主から叱られてもちっとも懲りないジョーは、コニー主演の南北戦争時代のロマンス劇に足を運ぶ。すでに65回も同じ芝居に通い詰めた彼は、すっかりセリフをそらんじているほどだ。
しかしその頃、俳優のなかに紛れ込んだドイツのスパイが、ひそかにテロ活動の計画を練っていた。

終演後。コニーの楽屋に訪ねてきたスレッタは、当てつけがましくラリーとの婚約を報告する。
スレッタが去った後、楽屋の鏡を叩き割り、荒れに荒れるコニー。
ちょうど楽屋に花を届けに来たジョーに、コニーはその場の勢いで結婚を申し込んでしまった。

籍を入れてしまったものの、興奮が冷めたコニーは、すでにジョーと別れるつもりでいる。
彼女が置き手紙を残して新婚初夜のホテルを去ろうとしたとき、ジョーが戻ってきた。
好きでもない男と一夜を過ごすのはまっぴらと、コニーはシャンパンに多量の睡眠薬を入れるのだが、間違って自分が薬入りのグラスを選んでしまう。
正体不明に眠り込んだコニーを、ジョーは悪戦苦闘してベッドに運び、自分はソファで横になる。

翌朝、マネージャーとラリーがホテルの部屋を訪ねてきたところへ、クリーニング屋の店主が洗濯物を受け取りに来る。彼とジョーのやりとりで、初めてジョーがクリーニング店の下働きだと知った一同は驚愕。
コニーは泣き伏し、ラリーは彼女を嘲笑して立ち去ろうとする。
ラリーをパンチでノックアウトしたジョーは、閉店後のクリーニング店に戻り、ガス栓を開けて自殺を企てる。
南洋のムードのなかで踊るコニーの幻を見ながら、死んだつもりのジョーは、やがて店主の「首だ!」という声に叩き起こされる。ガスは営業時間が終わると、自動的に供給が止まる仕組みになっていた。
店主はジョーを叱るうちに、一介のパンツプレス係が人気女優と結ばれるのは画期的な出来事だと考え始め、ジョーに洋服を与えて彼を鼓舞する。

コニーに会うために、出演者に紛れてショーの楽屋に潜り込んだジョーは、ヘイゼル・スコットやリナ・ホーンのリハーサルを聞いてうっとりとするのだが、門番に見つかって裏口から放り出される。ふたたび地下室から劇場に侵入したジョーは、地下倉庫で不審な行動をするスパイの役者に投げ飛ばされる。
スパイはいったんはジョーにピストルを突きつけるのだが、のんきに舞台の物まねをしてみせるジョーの様子を見て、無害な男だと判断する。
ちょうど電話で劇場爆破を急ぐようにと指令を受けたスパイは一計を案じ、ジョーに自分の役をやらせて、その間に地下室で時限爆弾をセットすることにする。

いきなり代役を頼まれたジョーは、舞台でコニーにキスができる役だと聞いて乗り気になる。
うむを言わさず楽屋に残され、ジョーは見よう見まねで髭面の北軍将校のメイクを整えてセリフの練習に励む。その姿を見たスパイの一味は、ジョーをスパイと間違え、当夜の爆破計画実行を確認するのだが、ジョーはわけがわからない。
出演者のなかに混じって舞台に出たものの、勝手を知らない素人のジョーのメチャクチャな芝居で、舞台は大混乱。彼の奇矯な行動に、客席は爆笑に包まれる。
舞台でセリフを語るうちに、つい先ほど耳にしたスパイの連絡係の言葉を復唱してしまったジョーは、突如爆破計画に気づき、舞台を放り出して地下室へ駆け込む。

地下室では、爆弾をセットしたスパイが、ちょうど逃亡を図るところだった。
舞台裏や天井裏、さらに地下室と、激しい乱闘を繰り広げた末に、ジョーはようやくスパイを殴り倒す。
スパイは、あと三分で時限爆弾が爆発すると言い残して気を失う。
地下室に降りてきたコニーとともに、必死になって爆弾を探すジョー。
爆発の時刻が迫るなか、君だけは逃げてほしいと告げるジョーに、コニーは本気で惚れてしまう。
コニーと抱きあうジョーの手に偶然引っかかっていたのは、時限装置の導線だった。
装置をたたき壊したジョーは、駆けつけたマネージャーと警察関係者から、英雄的行為を讃えられる。

コニーが主演する新しいショー "Star Eyes" の客席には、彼女の夫として満足げに舞台を見つめるジョーの姿があった。

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まずは本作について、ミネリ自身の言葉を聞いてみましょう。

ミネリ:あの作品にはいくつかのミュージカルシーンで、納得できないショットがある。あの作品を割り当てられて、ちょっとがっかりした。バスター・キートンがずっと口出しをしていたからだ。おまけに台本もひどかった。でも会社が脚本家を二人立ててくれて、納得のいくように撮り上げたよ。いくつかのミュージカルシーン以外はね。 (ヘンリー・シーハンによるインタビューより)

この発言が示すように本作は、すべてがミネリの意に添った形で作られた作品ではありません。
監督昇格以前の1942年に、ミネリがリナ・ホーンのミュージカル・シーンのみを演出した『パナマ・ハッティ』と同様に、"枢軸国のスパイを撲滅せよ" という不自然なプロパガンダ的要素が、むりやりねじ込まれています。
さらにコメディ部分には、バスター・キートンが口出しをしたらしい。
なぜキートンがミネリの作品に指図なんかするのかというと、本作は1928年にMGMと契約をしたキートンが、その翌年に監督した『キートンの結婚狂』 "Spite Marriage" のリメイク作品だからです。

オリジナルの『結婚狂』*1 (原題を直訳すれば、"当てつけの結婚")は、キートン最後のサイレント作品であり、トーキー時代を迎えてからのキートンの急速な凋落を予感させるかのような、傑作とは言いがたい作品です。
スター女優と成り行きで結婚したキートンが、泥酔した彼女をベッドに寝かせようと悪戦苦闘する有名な場面と、舞台に立ったキートンが芝居をメチャクチャにしてしまう爆笑ギャグ、あるいは後半の船上での体を張ったアクションシーンはかつての生彩をとどめているものの、他のドラマ部分は、かなり弛緩しています。

ストーリーはリメイクされた本作とほぼ同じですが、後半はキートンが船員になり、密輸団に乗っ取られた船からヒロインを救い出して、ハッピーエンドを迎えます。
それが本作では、ドイツのスパイの破壊工作阻止に差し替えられているわけですが、戦時下の要請に従ったのだろう唐突な趣向には、無理を感じざるを得ません。

その他、ドラマ的な部分にはミュージカル的な要素が大幅に取り入れられるとともに、登場人物たちの言動には現実性が加味されています。
たとえばオリジナルでは、新婚初夜の夜にヒロインはやけ酒を飲んで泥酔してしまうのですが、本作では窮地に陥ったヒロインが睡眠薬を使うという過激な手段を取ることで、カップルが直面するセックスの問題が強調されます。
あるいはファンへのキス会での思わぬ成り行きから、スケルトンがパウエルから濃厚なキスをされたり、女同士の嫉妬の描写が強烈であったりと、ヒロインが「当てつけの結婚」に至る動機が補強されます。旧時代のスラップスティック喜劇から、よりリアルなコメディへの脱却が図られているのです。
このあたりがたぶん、ミネリが脚本家に注文をつけた部分だったのでしょう。

しかし主人公が意識不明の花嫁をベッドに寝かせる場面と、舞台で騒動を起こす部分は、オリジナル通りに演出されます。しかも、同じ趣向をなぞるだけではなく、カット割りから役者の一挙一動までを再現しようと試みているかのようです。
オリジナルを観たあとで本作を観ると、まるでガス・ヴァン・サントのリメイク版『サイコ』(1998)を観たときのような、奇妙なデ・ジャヴ感覚に陥ってしまうほどです。
おそらくは本作の製作にギャグ作家、コメディ部分の演出アドバイザーとして参加したキートンが、現場で事細かに指示を出し、キートンの賞賛者だったというスケルトンが、熱心にそれに従った結果なのでしょう。

監督第二作として張り切って演出に臨んだミネリとしては、大先輩だけれど部外者のキートンの口出しは、たまったものではなかったはずです。
しかし結果的に本作は、映画史的な使命を終えて、スタジオシステムのなかで潰されていくキートンと、スタジオシステムを巧みに活用しながら、MGMのトップ監督に上りつめていくミネリが交差した歴史的な接点として、作品の内容を超えた感慨を与えてくれることになったわけです。

――こういった諸事情から、本作のストーリー部分は、まさに木に竹を接いだかのようなのですが、一方でミネリが演出したミュージカル・ナンバーは、非常に充実しています。
冒頭、ジミー・ドーシー・オーケストラが "Star Eyes" を演奏する場面では、これぞビッグバンドの醍醐味というべき興奮がとらえられています。
カウ・ガール姿のエレノア・パウエルが踊る、"So Long Sarah Jane" の流麗な移動撮影は、あきらかに他のミュージカル映画の監督とは異なる、ミネリの卓越した音楽的・芸術的センスを感じさせます。

本筋とは無関係なリハーサルシーンでは、女流ピアニスト、ヘイゼル・スコットの "Taking a Chance on Love" の神懸かりな演奏がまるごと収録されていて、この不世出の天才の貴重な記録になっています*2
続くリナ・ホーンの登場シーンでは、黒人コーラスを加えた寸劇風の "Jericho" が、これもまるごと収録されています。
この独立したミュージカル・パートでは、リナ・ホーンの堅実な歌唱力とともに、マックス・オフュルスを尊敬しているというミネリの言葉を裏付けるかのような、ダイナミックな移動撮影と、精密に設計された奥行きのある画面構成を堪能できます。

いっぽうでヒロインのエレノア・パウエルの見せ場は、ガス自殺を図ったスケルトンが彼女のダンスの幻を見る場面と、ラストで彼女のステージを見る場面に置かれているんですが、これがなんと、「踊るホノルル」"Honolulu" (監督: エドワード・バゼル、1939)と「踊るアメリカ艦隊」"Born to Dance" (監督: ロイ・デル・ルース、1936)のミュージカルシーンそのものの使い回しなんですね。
物資窮乏の時代とはいえ、メジャー会社にあるまじき情けなさです。

ミネリ作品として賞賛すべき部分と、首をかしげざるを得ない夾雑物が乱暴に入り乱れた、評価に困ってしまう珍品映画でした。


*1 「キートンの結婚狂」 Spite Marriage (1929)
監督: Edward Sedgwick, Buster Keaton (uncredited)
製作: Buster Keaton, Edward Sedgwick (uncredited)
原案: Lew Lipton
脚本: Ernest S. Pagano, Richard Schayer
撮影: Reggie Lanning
美術: Cedric Gibbons
出演: Buster Keaton, Dorothy Sebastian, Edward Earle, Leila Hyams, William Bechtel, John Byron, Ray Cooke, Pat Harmon, Sydney Jarvis, Theodore Lorch, Hank Mann, Charles Sullivan
(サイレント作品だが、伴奏音楽付きのサウンド版も同時に製作された)

*2 You Tube のこのページに、本作から切り出されたヘイゼル・スコットのピアノ演奏パートの動画がアップされています。

(03 September, 2006 ©taraga)


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