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赤い犯行

監督: 若松孝二

1964年

製作: 東京シネマ, 日本シネマ
製作: 鷲尾飛天丸
企画: 千葉実
脚本: 吉岡道夫
撮影: 伊藤英男
音楽: 竹村次郎
美術: 梅沢薫
照明: 森康
出演: 神山卓三, 路加奈子, 寺島幹夫, 藤森和子


★★★充実したサスペンス

訪問先の家内で婦女暴行を目撃し、女(路加奈子)を助けようと現場に飛び込んだ化粧品のセールスマン(神山卓三)。暴行犯から殴られて気絶した彼が意識を取り戻すと、すっかり強姦魔に仕立て上げられていた。
じつは女を襲ったのは彼女の義弟で、不義が露見することをおそれた彼は、兄嫁に口裏を合わせるように強要したのだった。しかもこの事件の担当検事は、女の夫(寺島幹夫)である。社会的弱者に偏見を持つ検事は、容疑者の供述を頭から信用せず、十年はブチこんでやると鼻息を荒らげる。進退窮まった男は留置所を脱走し、恋人のもとへ身を寄せるが、女は隙を見て警察へ通報する。男は他人が信じられなくなり、大胆にも事件のあった家へ忍び込むと、検事の妻に盗んだピストルを突きつけて、本当のことを言えと迫るのだった……。

『乾いた肌』『鉛の墓標』などと同様、若松プロ設立以前の作品らしく、かろうじて普通の映画が成立する予算規模で作られたのだろう、手堅いサスペンス・ドラマ。
弱者抑圧の権力を象徴する検事の、冷徹でエゴイスティックな人物造形は、現在の目で見ればなんでもないのだが、当時としてはかなり強烈に思われたにちがいない。
反権力的だといわれる若松孝二の映画を観て思うのは、「警察をブチ殺すために」などと過激な発言をしながらも、常に権力側をたんなるバカとして描かず、下手をすると「敵」の真情や勤勉な仕事ぶりに観客が共感しかねないほどの魅力を与えていることで、本作でも検事やその妻は、彼らなりに真摯に正しさを追い求めて苦悩する。ほんとうの悪は敵味方にあるのではなく、両者から利益を搾取する第三者(検事の弟)なのだという設定が、実践的なリアリズムを感じさせる。

当時の「家庭婦人」のメロドラマを成立させるための、あくまでも日常的なモラルを前提とした「過激な」作品なので、主人公やヒロインの前時代的な逡巡がヌルく感じられる印象は否めないのだけれど、男と恋人との関係や脱走場面などを大胆に省略しながらも、説得力を失わずに悲劇を組み立てていく手腕はさすがで、大島への逃避行に至る風景の転換も、あざやかにクライマックスを盛り上げている。
大ロングで撮影された、荒涼とした火山のふもとを歩む主人公の周囲を、巨大な雲の影が次々と通り過ぎていく抽象画的なショットは、たんなる心象説明にとどまらず、その後の若松プロ作品に出現する、意味を超えた「風景」を予告しているかのようだ。

「犯罪者」であることに自らおびえる演技が印象的な神山卓三は、のちに声優になって、『怪物くん』のフランケンや、『チキチキマシン猛レース』のケンケンの吹き替えなどをやった人らしい。
ヒロインにしてはちょっと影の薄い路加奈子は、『白日夢』(武智鉄二・1964)の主演女優なんだな。
爬虫類っぽい魅力の寺島幹夫は、今回の上映会とDVDで、jmdbに掲載された出演作19本のうち8本を観たことになる。

(2005/7/29 ポレポレ東中野 若松孝二レトロスペクティブ2005)


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